空が満ちる時



あらすじ エピソード0 プロローグ 第一章 第二章 第三章 第四章 エピローグ エピソード0 あとがき

第一章 〜見えるもの〜


 早歩きで通学路を通る。時間的にはまだ大丈夫だったが、愛夏が先に行ってしまったので気分的に早く学校に着きたくなっていた。
 そうして歩く途中、一つの路地裏に繋がる道に気付いた時、
「――っと」
 慌てて後ろに飛び退いた。そして今までいた場所、ではなくそのまま進んでいればいたであろう場所に、凄まじいスピードで何かが振り下ろされるのが見えた。
「ああーっ! またかわしたっ」
 叫び声にも似た大声が響く。
「躱さないと下手したら死ぬだろうが」
 ごく当然のことを襲撃者に言う。
 襲ってきたのはクラスメイトの一人、金藤美浜こんどうみはまだ。剣道部に入っている彼女は幼い頃からやっていただけあってかなり強い。実際、二メートル近い大男を一発で倒したこともある。
 そんな相手が木刀を――決してしない竹刀などという生易しいものじゃない――振りかざ翳して来られたら逃げる以外に道はない。
「お、おはよう」
 にらみ合う二人をよそ他所に、おずおずと声を掛けるのは草永海明里くさなみあかり。美浜と同じくクラスメイトで、美浜の親友でもある。
 上がり症の彼女はやはりいつも通りに落ち着きなくもじもじと体をせわしなく動かしている。美浜より少しだけ短くくせのない彼女の髪は、顔を隠すほどに長くはない。そのため赤くなった顔がよく分かる。
「おはよう、草永海さん」
 ぷい、と目の前の相手から目を離し明里の方へと顔を向ける。
「ふー。おはよう、山崎やまざき
 美浜も一触即発の雰囲気を一瞬で消し去り、ぷらぷらと片手を振って言った。
「なあ、いっつも思うんだが、何で木刀なんだ。せめて竹刀にしろよ」
「なーにを。一度も喰らったことないくせに」
 はっはーん、といった感じに木刀で肩を叩く。どっちが強いか決めようじゃないか、と誘っているようにしか見えなかった。
「まあ、分かるからな」
「ほんと、武術をしてるわけじゃないのに何で人の気配が分かるのさ」
「あはは……」
 乾いた笑いが出る。実際は気配が分かるのではなく見える≠フだが、そんな些細なことはわきに置いておいた方が良い。
「それじゃあ、行くか。ほら、草永海さんも」
「あ、はいっ」
 一歩身を引いたところにいる彼女を引き寄せ三人で歩き始める。そうしてすぐに美浜が口を開いた。
「さっき愛夏を見たよ」
「ああ、先に行ったからな」
 どうやら待ち伏せしていた時に彼女たちの前を横切ったようだ。
「ところで草永海さん、後で宿題を見せてくれないかな?」
「うん、いいよ」
「ちょ、明里。いっつもサボってるんだからいい加減止めなよ。エセ優等生の思うつぼ壺よ」
 今時エセなんて言葉を使うのはいったいどれくらいいるんだろうか。
 と思っていると背中を思い切り叩かれた。美浜の奴ではないし草永海はこんなことをしない。となると答えは一つしかなくなるわけだが――
「よう、とおる。プチハーレムなんざ作りやがって。俺も混ぜやがれっ」
 ニヤニヤと楽しそうな顔で現れたのは、久那真一くなしんいち。もちろんこいつもクラスメイトではあるが、影ではホモだともゲイだとも噂されているほどに浮いた話のない軽薄な男だ。矛盾はしていない。浮いた話がないだけでナンパなのは確かだ。本人の言い分では婚約者がいるからだそうだが……。とても信憑性しんぴょうせいの高い話とは言い難い。
「よ、美浜。朝から襲撃とは精が出るね。明里ちゃんはそんなこいつのお付き合い? 偉いねー。がさつ女と一緒に居続けるなんて」
「ねーえ、真一。あたしは今、とーっても機嫌が悪いんだけど、何でか分かる? そうよ。今日も山崎の奴をぶちのめせなかったのよ」
 うふふ、と口元に手を当てるお嬢様笑いをする。真一を含め、全員が警戒を強める。彼女が次に何をどういうのかが分かっているからだ。
「シニナサイ」
「ゴメンコウムリマス、っと」
 わざわざ同じ口調で返事をし、更に頭を下げる真似までしてからさっさと逃げて行く。それを嬉々として追いかける美浜。たまにある日常の風景だった。
「行こうか」
 もう何度目になるか分からない同じ文句を口にし、草永海に笑い掛けた。


 隣の席の草永海から宿題を見せてもらい、なんとか間に合ったそれを提出した後の昼休み。
「ふーむ、食堂にするか学食にするか……。悩みどころだな」
 腕を組んで真剣に悩む真一を横目に、透は草永海と愛夏に訊く。
「今日はどうする?」
 草永海は困り果て、愛夏は悩んだ。
「あたしには訊かないのね」
 まあいつものことだけど、とどこか諦め顔で言う。
「おーい透、ちょっとこっち来い」
 真一の呼ぶ声が聞こえ、真一の方へと向き直る。
「どうした、真一」
「いやなー、透。一緒に食堂行かね?」
「それは構わないけど……三人は来るか?」
 振り向いて一応の確認を取る。
「ん、あたしは別に良いわよ。明里も行くわよね」
 美浜は即答。草永海はどうしようかとあたふたしていたが美浜に押し切られる形で同意。残る愛夏に関しても別に構わないとの返事が来た。
「よし。これでお前のプチハーレムも終わりを迎えることになるぜ」
「朝から思ってたけど、なんだよプチハーレムって」
「ああ、いやな? お前ってこの女子三人組とよくいるじゃねえか。しかも毎回のように食事ご一緒しやがってよ。香則のことがあるにせよ仲良くし過ぎだからさ。男子の間でそういう風に言うようになってんだ」
 あっはっはっは、とさも愉快そうに笑う。いや、実際に愉快なのだろう。こいつの笑いのツボはとても浅い。ただのニュース番組にさえ吹き出すほどなのだから。
 しかし、透は言いたい。お前もなんだかんだでいつも一緒だろうと。
 真一のらぬ気遣いとでもいうようなものに適当な対応をして、透は意味ありげな視線を向ける。
「と、そろそろ行かねえとな」
 真一がこちらの視線に気付いたのか、思い出したように言い出す。学食も食堂もあまり混むことはないが席が足りなくなることはある。なにしろ二十人分しか座るところがないのだから。
 食堂へ行く途中、学食の様子が見えた。学食と食堂。この学校には購買部という物の他にそんな呼び方をされる食事所が二つある。
 他の学校では学食も食堂も同じ意味を持つが、ここでは違う。
 学食は、早い・安い・量がそれなりの味は未保障。半ば実験所と化しているがときたま名品ができることもある。
 かたや食堂は、オーソドックスなメニューと値段は普通なのに大量というのが売りだ。
 つまりはチャレンジャーか面白半分に行くのが学食。仲間内で楽しく食べるのが食堂、といった感じだ。
「おーおー、派手だねー」
 確かに、真一が言うとおり学食は混迷を極めていた。それも常人には理解しがたい過程を経てそうなったらしい。
 『元祖! 火を吐くほど辛い何か』とか書かれてるはた旗が刺さった本当に『何か』としか言いようのない物体を食って身悶みもだえしてるのが見えたりしていた。
 中には食べ物を口に運ぶ度に席を立ってぐるりぐるりと踊っているようなのもいた。
「うっわ、まだあれあったんだ『回転三踊り』なんて」
 なんだよそれ。
 思わず全員が美浜に注目してしまう。それに気付いた美浜は、ばつが悪そうに顔をしかめる。
 もっとも、怪しげなネーミングの物だけが実験料理なのでそれ以外は何の心配もない。たぶん。大丈夫。しかもそれらはスペシャルメニューの裏料理として掲載されている。よほどのことがない限り普通の奴がそんな物を食べる機会はない。今見ただけでざっと五人は食べているように見えたけれども。
「大変だーっ。味噌汁で当たりが出たっ!」
 誰かが騒ぎ立てる声がする。そちらの方へ目をやると、椅子に座っていたはずの生徒が一人、転げ落ちていた。
「早く! 松原さんの所へ!」
 松原さんというのは学食の責任者だ。学食の物を食べてどうにかなった時に見てくれる医者でもある。一部には医者のクセに冒険なんてさせるなよ、という意見もあるそうだが黙殺されている。
 校長と旧知の中だとか実はとてつもない権力の持ち主だとかいう話だ。
「……触らぬ神にたたりなし。これ以上ここにいるわけにはいかないな」
 真一が真面目な顔をして言い、皆それに従った。
 たぶん、最初からここに来ることにしてもおじゃんになることは決まっていただろう。
 そんなこんなで悲惨な学食を通り越し、目的の食堂へと辿たどり着く。
「ったくなんで学食の方が近えんだか」
 毒吐どくづく真一に誰も合いの手を差し伸べることなどせずに食券を買いに、台数だけは十分以上にある自販機へと歩いていた。
「ああもうっ、無視かよ」
「お決まりの言葉には聞き飽きたんだよ、皆」
 いちはや逸早く買い終わった美浜が振り向き様に答える。買ったのは『面白メニュー百選 ランダムセレクション』。堅実を売りとしているこの食堂で唯一の遊びネタだ。それでも出てくる内容は至って普通の物なのだが。
「透は何買ったんだよ」
「『みそラーメン』」
 ぴらぴらと音を立てて少し硬い食券を振った。
香則かのりちゃんと明里ちゃんは何買ったのかな」
 なぜか下心満点といった表情で二人に訊く。愛夏のことを苗字で言っているのはこいつなりのせめてもの気遣いなのだろう。愛夏は親しかった相手のことも忘れているから……。
「わたしは、『ハンバーグ定食B』」
「あ、はい。『日替わり定食A』です」
 とにかくこの学校の食品事情は壮絶の一言に尽きる。
 購買部からして教室二つ分近いスペースを陣取り、食堂では食事する所は狭いが調理をする場所は異常に広い。学食に至っては筆舌にし難いとしか言いようがない。
「それじゃ、俺はこれにさせてもらおう」
 そう言って出てきた券を見るとそこには『カツ丼』、と無意味にでかでかと書いてあった。
「おい」
 透と美浜のツッコミが被る。
「ははは、そろそろ自分の飯取りに行かね?」
 真一の言で皆一緒に食事を取りに動く。
 私立であるこの高校は、金をかけて見た目だけではなく内装などをも充実させている。メニューこそ庶民的ではあるものの、そこらの物よりよほど美味い物が食べられる。
 その割に珍妙な所が多いのは、まあ目をつぶって頂きたい。色々とおかしいことがあっても、それがこの学校なのだ。
 そして噂では卒業生に兆を超える資産の持ち主がいてその人が道楽半分で母校に金を注ぎ込んでるとかいないとか。
 つまりは、奇特な物事が陳列されてしまった不運な高校というわけで、とりあえず幽霊を子飼いにしていると言われても笑えない小世界なのだ。
 なんでもあの超国家プロジェクト『新学園計画』に対抗して作られたらしい。
 全国に現在五つ作られたその国立の学園は、その巨大な敷地しきち潤沢じゅんたくな資金を利用した一個の街として存在しているという話だ。その全容はまだ明らかになっていない。限られた、応募の中から選ばれた生徒しか入ることを許されない謎の学校。
 この学校の近く、と言っても大分離れていて交流も全くないが、その国家規模で作られた学園がある。興味はこの辺りではそれほどない。むしろこの辺りではこちらの学校の方が興味を持たれている。そんなわけでさほど意識していなかった。それに関係もない。
 席を確保してから出てきた品を取りに行く。どれも見た目からしてレベルの高い出来栄えだ。
「そういやさぁ、朝のニュース、見たか? 最近やけに事故が多くねえか。今年に入ってからこの街の中だけで二十件近くも大きな事故が起こってるしさ」
 真一が席に座ってから、おまえらどう思うよと訊いてきた。
「え? そんなに起こってるんだ。えっと、ほら、一番大きな事件が報道されなくなった後から増えてきたなとは思ってたけど」
 美浜が途中、言葉をにごしながら言った。わざわざ濁したのは、一番大きな事件と言うのが愛夏に関わることだからだろう。
「地方紙ぐらい見ろよ。自分たちの街だろうが」
 ここにいる五人は全員同じ街に住んでいる。ただ、透・愛夏・真一のグループと美浜・明里のグループが出会ったのは高校に入ってからだ。
「つっても俺だって正確に数えたわけじゃねえからそんなに起こってんのかは分からねえ。でもそれぐらい言えるほどに死亡事故が起こってるぜ」
 とにかく気を付けろよ。いつどこで巻き込まれるか分かったもんじゃねえからな。
 そう締めくく括ってからカツ丼を口にき込んだ。どうやら人の身を心配して言ったことらしい。
「物騒とは言わないけど、ここ数日は毎日のように起きてるから覚えとくわ」
 意外にも美浜がうなづいた。真一の言っていることがそれだけ本当だということだろう。普段は真一と茶化したりからかい合ったりしてるのに、素直に返事を返したのだから。
 そこからはいつも通り、わいわいがやがやとにぎやかに食事を進めた。
 真一がふざけ、透と愛夏がフォローするも美浜が怒り出し、草永海がそんな美浜を押さえようと彼女に関するちょっとした爆弾発言をする。
 とどこおりなく回る歯車のように、何の問題もなく続く永遠とも思えるこの時は、放課後に狂い始めた。


 今は美浜を除く全員が帰路に着いていた。美浜だけは帰宅部ではないのだ。愛夏も部活はしていたが、この状態では続けられるはずもなく、とっくに止めていた。
 四時を過ぎても太陽の光がまぶ眩しく感じる。大通りに差し掛かって来るにつれて不快になる車の駆動音も、喋ってさえいれば気にならない。
 そんな時、透はそれに気付いた。たまにある、それを見た。
「あ、草永海さん」
「はい? きゃっ」
 何もないところで転ぶ、その原因を。
「っと。怪我はない、よね」
 逸早いちはやく気付けた透だからこそできた、つまづくと同時に体を支えるという芸当。腕の中に明里がちぢこまってすっぽりと納まっている。
「は、はい」
 申し訳なさそうに顔を赤くして彼女はうつむく。透の腕を掴む力も弱い。ただ、いつまでもそうしているわけにいかず、透は明里を丁寧に引き離した。
「あ……」
 どこからか残念そうな声が聞こえたが、空耳だろうと透は思う。そして透は先程見えた原因を苦々しく見る。触ることができないのが実に残念だった。
「どうしたんだ、愛夏」
 愛夏は複雑そうに顔を歪ませていた。透がいぶかしんで問いただそうとする前に、真一が割り込んできた。
「よく明里ちゃんが転ぶって分かったなぁ。すげえな、おい」
「あ、ああ。歩き方が一瞬変になったから」
「へえ、よく見てんだな。ん、実は明里ちゃんに気があったりして」
 明らかにからかっていると分かる口調。だが内容が内容なだけにこれは問題発言だ。
 慌てて明里の方を見ると、思ったとおり彼女は顔を、でタコなどと表現するには生易し過ぎるほど赤々とさせていた。
 それにつられて透までもが顔を赤くしてしまい、そこに冷やかすように真一がはやし立てるものだから更に顔が赤くなる。もちろん、比率は明里の方が遥かに上なのだが――
「よっ、ご両人!」
 そう言って高らかに笑う真一の声が耳に入り、ついに透の中で何かが吹き飛んだ。
「真一っ!」
 にやにやと意地の悪い笑みを顔面に貼り付けた悪鬼に、透は向かって行った。
 透の顔は真っ暗闇から突如として現れた般若はんにゃもかくやというもので、きっと阿修羅あしゅらであろうとも三つある顔を全て同じ顔にすること間違いなしだ。
「おわっ、なんだよ。落ち着けって」
 透の剣幕けんまくに押され、真一は冷や汗を垂らしながら作り笑いで引いた。
「ううううう〜っ」
「ほら、もういいでしょ? いつまでも起こってないで、少しは落ち着いてよ」
 真一は、透の怒りが一段落して愛夏と話し始めるのを待ってから、まだ顔を赤くしている明里をひじつつき声を低くして言う。
「なあ明里ちゃん。ネタは上がってるんだぜ?」
 凝りもせず尾を引っ張り続ける真一。
「ネ、ネタって何ですか」
 さっきのようなことがあったせいか彼女の警戒は強い。
「透のことが好きなんだろ。協力するぜ」
 ニヤッ、と下世話と評されるような笑みを見せる。そして、この演技と相俟あいまって真一の言葉は明里に必要以上の衝撃を与えた。
「ななななななな、なんでっ」
「おーっと声がでかい。透の奴に感付かれたくはないだろ?」
 明里が声を上げるのは予想済みとばかりに手で口を押さえつける真一。対する明里は真一の言葉にこくこくと頭を振るばかりだった。
「ど、どうして知ってるんですか? 誰にも言ってないのに」
 口から手を放してからの第一声がそれだった。後半はもごもごと口の中でだけ言ったようだが。
「見てりゃ分かるって。明里ちゃん、透の前ですっげえ赤くなるしコロコロ表情変わるしさ」
「へ? そんなに変でした?」
「うん。それはもう」
 ううー、とまたまた顔を赤くして両頬りょうほほに手を添えた。
「それで、だ。俺はそんな明里ちゃんに協力したくなっちゃったわけよー。本当はもっと早くにそうしたかったけどほら、あんなことがあったしね。遠慮してたわけだけど、そろそろいいかなーって。美浜の奴からもオッケーもらったし」
「み、美浜も知ってるんですかっ」
「うん、そう。気付いてないのは当の本人だけだろうね」
 くけけ、と笑う真一。それを見た明里は、天使、または小悪魔の笑顔はこういうのかもしれない、と跳んで行く思考の中で思った。
 それから呆然とする明里に、真一はいつどこで相談するかを伝えて離れて行った。そして何事もなかったかのように透と愛夏の輪へと入り込む。
「あ、う……」
 夏なのに、肌寒く感じる風がどこからか吹いてくる。それはとてもとても不思議なことに自然だと感じる風だった。
「はっ」
 それがきっかけとなったのか明里が意識を取り戻す。だいぶ離れたところに三人はいたが、真一が弾丸トークでもしているせいか誰も明里が離れていることに気付いていなかった。
 明里は走って追いつこうとする。急いで距離を詰める彼女は一人の青年に気付く。
 金と茶の二色に染めた髪。いかにもキメマシタといった服装。腰につけたシルバーチェーンが擦り合わさる音が耳につく。
 いつもはこの程度のこと、何一つ気にするどころか目を留めることさえないのに。しかも今は追いつこうと焦っているのに。
 どうしてだろうと思うも、その時にはその人を追い抜いてしまっていた。今更引き返せるはずもない。そのまま仲間のところに向かった。
 不思議なことに、追いついた時にはもうそんな青年のことなど忘れてしまっていた。あれほどおかしいと思っていたのに。
 これがシグナルだと彼女が気付いていたら未来は変わったのだろうか。


「ところでさ。透はなんでメガネ掛けてんの。ダテだってことは周知の事実だろ」
 大きな交差点に近付いてくると真一が不意に訊いた。
 透が真一に憤慨ふんがいしてから実に十分ほど経った頃である。ほとぼりも冷め、また真一が皆から別れる地点がすぐそこという、何か地雷を踏んでも時間を置かせて考えることができるタイミング。
「ただの気休めだよ。ほんと」
「何の気休めだよ」
「精神的なことさ。かなり個人的なことでもある」
 透はそれまで気にしてなかったメガネのずれを直した。返答の仕方からしても遠回しにこの話題を避けていることは分かる。
「どうしても言えないことか?」
 真一の質問に、透はどこか悲しそうな顔をして、
「そういうわけでもないけど、できれば言いたくはない」
「そうか。ならいいや。訊かれたくないこと訊いて悪かったな」
 あっさりと引いてくれたことにほっとした様子をありありと見せ、透は薄く微笑んだ。
「それじゃ、俺はこの辺で。…………後はがんばれよ」
 ウィンクまでして明里を後押しする真一。それで明里は気付いた。真一は自分が透のことを一つでも知るために訊きにくいことを率先してやってくれたのだと。あまり良い話題ではなかったが。
「ありがと……」
 恥ずかしくて顔を上げたまま言えなかった。この言葉が真一にまで届いたかどうかは知らない。その時には地面を蹴る足音が耳に聞こえていたからだ。
「草永海さん?」
「あ」
 うっかり道を外れてしまっていたことに気付かず、あやうく車道へと出てしまうところだった。
 こんなドジなことを平素でしでかしてしまうことに常々つねづね危機感を抱いているのだが、いかんせん生来のことをどうにかするのは非常に難しかった。
「気を付けてね」
「はい」
 今日はいつもより顔が赤くなる回数が多い。しかも大半は好きな人に見られている。そのせいかよけいに顔が熱くなる。
「大丈夫?」
 もはやのぼせているのよりも遥かに赤味を帯びた顔は、さながら融解寸前の鉄のようであった。これで気にしない人がいるのならそれは鬼畜かこんな姿を見慣れた者だけであろう。
 残念ながらここにそんなものを見慣れた人物はいなかったが。
「だ、だいひょうふです」
 相手が心配して寄って来てくれているのは分かる。明里は頭のどこか冷静な部分で事態を受け入れていた。
 素直にこういうのは嬉しい。でも、おかげで心拍数がさらに上がってしかも舌まで噛むようになって。もう穴があったら入りたい。
 思考のループにはまらなかったのが幸いというべきか。不本意ながらも素早く透から離れることができた。本当に、離れてしまうのは不本意だったが。
 明里は今までの経験で自分がしばらくはまともでいられないことが分かっている。
 簡単に言うと、今日はもう深く考えた行動はできないということだ。何をするにしても短慮で、一つ一つの意味がつながらない。自分でもよく分からない奇行をしてしまうことだってある。
「なら、いいんだけど」
 に落ちない、という表情ではあったがとにもかくにもこれ以上の追及がなくて良かったと明里はほっとした。
 と、そこで今まで意識の外に――仕方がないのだが――置かれていた愛夏の姿が映る。
「むー」
 何やら深く思案している模様。何を考えているのかまではうかがえないが、なんとなく自分に関することのように思えた。
 いや、たぶん。間違いなく、彼女は透と明里のことで何かを思っていた。
 これは直感で、美浜に言わせれば女の勘というやつで、確証もへったくれもないのだが。
「ねえ、今何があったの?」
 訂正します。一応当たりましたけど、思ったようなことではなかったです。はい。
「ああ、まあ。ちょっと」
 さすがに正面切って誰かがドジやらかしましたとは言えなるわけもなく、言葉をにごす透。
「ふーん。あ、もうすぐ青になるよ。二人ともいそごっ」
 言うや早いか彼女はもう走り出していた。驚き慌てて二人も付いて行く。
「うーん、ちょっと早まったかな」
 大きな交差点に着くと、ちょうど反対の歩道が赤に変わったところだった。
 十秒も待つことなく信号が青に変わり、対岸へと渡り始める人たち。そんな波に乗ろうと、ワンテンポ遅れて三人も渡る。
 都会ではないのでスクランブル交差点などありはしないが、対岸までの距離は優に三十メートルを越した。
 たまにあるのか今日は反対側から渡ってくる人は誰もいない。こちら側からも、自分たちを含めて五人しか渡っていない。
 天気は晴れ。そのわりに気温は高くない。一日という時間で区切れば十分に悪くない日となるこの日。
 交通事故が起きた。


 最初に気付いたのは僕だった。
 自分たちが来た方向から迫るトラックが、前に車が一台もないのをいいことにスピードを出していた。
 初めはちょっと危険な運転をしているな、程度にしか思わなかった。けれど、だいぶ近付いてきた頃に異常を感じた。
 トラックの運転手の傍らにいたあれ≠ェ、どこからか来た別のそいつ≠ノ倒されるのが見えた。
「え?」
 思わず立ち止まる。トラックの運転手が急に慌てたような顔を見せたからだ。そしてその慌て振りから一つの可能性が頭に生まれた。
 ブレーキが利かない。
 急いで首を回す。愛夏も草永海も事態に気付いてはいない。こちらの動きに懸念けねんを抱いてはいるようだがそれが何なのかまでは分かっていない。
 立ち位置はこうだ。
 僕を挟んで愛夏が少し離れた前に。後ろに草永海さんがいる。そしてトラックが突っ込んでこようとしているのは――――僕と草永海さんの方。
「くっ」
 場所が悪い。僕は少し動けば躱せるが、彼女の方はそうもいかない。運命か神のいたずら悪戯か、しっかりと真正面だ。
 とりあえず完全な安全を確保するために、愛夏がうっかり近付いてしまわないよう片手で突き飛ばす。
「きゃっ」
 驚いた声がじだ耳朶に届く。だが構っている暇はない。トラックとの距離はもう十メートルもない。
 普通の方法じゃ助けられない。脳裏のうりに浮かび上がったのは、映画やマンガでよくあるあの光景だった。
 できるか? そんな問いははな最初からなかった。
 これが思い浮かんだ時にはもうすでに体が宙を飛んでいたからだ。
 抱えた重さははかな儚くて、でもここにある温かさは本当に存在していて、ただ呆然と、すぐそこを突っ切って行くトラックの質量と風を感じた。
 轟音。
 まさにそうとしか言いようのない音が聞こえてきた。盛大な交通事故になったことは疑う余地もない。
「怪我はない? 草永海さん」
 打ち付けた体の節々が悲鳴を上げているが、とにかく訊かずにはいられなかった。
 それきり、意識は暗黒へと抗えない力で以て運ばれて行く。最後に聞こえた声は、明里と愛夏、どちらのものだったのだろうか。
 消え行く意識では分かるはずもない。


 重軽傷者五名。死亡者二名。
 それが今回の交通事故での被害だった。
 死亡したのはトラックの運転手とトラックが突っ込んだ先にいた店の客。同じく重傷者はその店の店員と店長である。軽傷者は三名。全員同じ学校に通う高校生だ。
「ひでぇな、おい」
「うっさい。余計なことは何も言うな」
 この事故で被害を受けた者たちの親族、遺族他友人たち及びもろもろの事情で病院に来ている深刻な面持ちの面々に、やはり深刻そうな顔をした背の高い女子高生と少しだけ真面目な顔をした軽薄男といった風体のやから輩が入ってきた。
「この病院に搬送はんそうされた山崎透という人の病室はどこですか」
 病院の受け付けでナースに訊く女子高生は金藤美浜だ。
「山崎さんですか? 少しお待ちください。…………407号室です」
「ありがとうございました」
 礼を述べて二人は言われた病室へと足を運ぶ。
「トラックにかれて入院、ねえ」
「形だけでしょ。怪我は大した事ないって言ってたから、今日中にも出るんじゃないの?」
 つっけんどんな返答に、真一は肩をすくめるだけで何も言わない。
 ここまで心配するのもどうかとは思うが、それだけ彼女にとって彼らが大事だということなのだから。
 では自分はどうなのかと訊かれたら、それはそれでまた複雑な回答になる。
 さすがに事故ったと聞いたときは驚き焦ったが、無事であれば心配などさらさらする気はなかった。
「だって、なんか負けた気するし」
 美浜辺りに聞かれたら根性叩き直してやるとか言われそうだが、幸いにして彼はまだ誰にもそんな本音を暴露したことはない。彼にだって自分がちょっと薄情で恥知らずだな、と思うことはあるのだ。往々おうおうにして改める気はなかったが。
「ようっ、元気してたー? …………ってこれはこれは、いや悪いね。うん。失礼」
 病室が見えてきたところで駆け足になった真一は美浜よりも先に中の様子を見てすぐに出てきた。
「なに部屋間違えてんのよ」
「いやー? 間違えてなんかいないぜ」
 口元をいやらしく吊り上げる真一に渋面を作る美浜。だが彼女も扉を開けたとたん途端にポカンと口を開けたまま固まった。
「あ、あんたたち何してんのよ」
 ようやっと声を出す美浜。彼女の見る光景は、硬直したまま帰って来ない三人の姿。
 大げさなのか妥当なのか、頭に包帯を巻かれベッドで寝た状態の透。
 その横で椅子に座ってりんごをいている愛夏。
 明里に至っては包帯をえようと看護師も呼ばず一人でやるつもりだったらしい。
「あ、こ、これはね。うん、そう。ちょっと看護師の人たちが手が放せないって言ってたから」
「べ、別にくだものくくらい……」
 予想に反して、先に帰って来たのは明里であり愛夏は最後まで物を言えない様子だった。
「ま、まあいいわよ。好きにすれば。でも、本人が寝てるのに色々やっても、ね」
「いんや〜? むしろそういう方が俺はぐぐっと来るから。やっちゃってよ。もっと大胆に、スキンシップとかいっ、で!」
「あんたはあんたで…………もうっ」
 アッパーを舌が噛むように決めてから真一の胸倉をつかにらむ。心なしかその眼が怒りに囚われているように見えた。
 だが言っても無駄だと思ったのか口を動かし始めてから二秒後には放していた。
 噛んだ痛みと頭が揺れるせいで沈黙しながらも身悶えする真一。しばらくはまともな返答は期待できないだろう。
「とにかくっ、変な出来心は捨てなさい。見てて落ち着かないから」
 はい、とうなだれて大人しく従う二人。彼女たちも心のどこかでこれはもう醜態かもしれないと思っていたのだろう。普段しないことをするほど恥ずかしいことはない。
「ん……、ここは」
 周りが騒がしくなったことで透は起きた。そんな透に近付いて状況説明をしたのは美浜だった。
 素早く、それでいて自然な動きだったために誰も割り込むひますきもなかった。
 透もドア付近にいた彼女がわざわざ寄って来て言ったことに不信を抱いている様子はない。
 おかげで動きの凍った二人の少女を見ることはなかった。見たら透は必ず訊いて来ただろうし、それによって二人がパニックになることは目に見えていた。
「まったく、愛夏め」
 小さく毒吐く声は誰の耳にも届かなかった。透か真一のどちらかが聞いていれば彼女がそう言った理由も分かったが。
 何にせよ。今は関係のない話だ。
 ちなみに、実は今回のことは明里から始めたことであるのは二人だけの秘密となった。


「愛夏、まだ慣れないのか」
「え……」
「美浜と草永海。あの二人の前でだけまだ上手く喋れないだろ」
 即日退院となった透は気を遣う友人たちと別れるために、大丈夫だということをいささか過剰なアピールをする羽目はめおちいってしまった。傷を増やしはしなかったがけっこうきついことをした。
 ブリッジなんて体の固い奴がやることじゃないな……。元々運動なんてしてもいないし、酷い目に合った。
 中学の時も帰宅部で通していた透はそんな欠点を除けば運動は並以上にできる。もっとも、本職と比べればだいぶ色落ちはする。
 空が茜色あかねいろに変わる姿を目の当たりにしながら、透と愛夏の二人は静かに歩む。決して沈黙ではないことが二人の親しさを表している。
 帰り遅れたかそれとも早帰りか、一羽のカラスが一声鳴いてから飛び立った。
「気後れしてるだけなら良いんだけど、それ以外に何かあるんなら言ってくれ。僕が力になるよ」
 その声にはそうそう気付くことのできない強さと意志があった。それはキザなセリフなのに何気なく言われているからか。
 ただその決意と取れるものは幼馴染みの域を出ておきながら、恋や愛といったものとは別物に感じられた。気付く者はまずいないだろうが。
 対して愛夏は、困ったような顔で笑うだけだった。
「初めて会った時のことが、ちょっとまだ尾を引いてるみたい」
 最近落ち着いてきたし、そのうちそんなのもなくなるよ。駆け足で少し前に出た彼女がクルリと回って言った。
 記憶を失くした彼女は一時期、極度の対人恐怖症におちい陥っていた。そんな時にあの三人と再会したのだからそれも仕方のないことと言える。
「ならいいんだ」
 ほっとした透は日没の様子を見る振りをした。断じて、陽光を浴びた彼女の姿がいつもよりずっと綺麗で照れ臭くなったわけではない。
「さ、行こ。早く帰って夕食作らないとなゆこ菜由子さんが帰ってきちゃうよ」
 透の父親はずっと前に亡くなっているため、彼の家は母子家庭で母親が会社勤めをしている。そのせいか透は料理が上手い。小学生の時は少しだけ武道を習ってもいた。今も最低限の運動は自分でしている。
 事故があったおかげか、透たちが家に着くまで車はどれも安全運転で走っていた。あれだけ大きな事故は人の警戒心をあお煽るには十分だったようだ。
 今は空き家となっている幼馴染みの家を横切り、家族が一人――いや、一人と一匹――増えた我が家へと帰って来た。
「ただいまー」
 二人一緒に帰宅の有無を告げる言葉を言い、先に愛夏を通してから透は玄関に入る。
 愛夏はすぐに自分の部屋に向かった。荷物を置いて、そこで着替えるつもりだ。
 透は玄関以外完全に洋風と化している家のリビングへと向かう。一般的な高校生男子は家に帰ってすぐに着替えることは……というか自分の部屋に向かうのはそういないのではないかと思う。これは偏見の入った考えなので安易に断定はしない。
「何か、忘れてる気がする」
 とは言っても気がするだけで具体的に何を忘れてるのかは断片的にでさえ分からなかった。とりあえずのど喉がかわ渇いたので冷蔵庫から適当な飲み物を取り出して飲む。
 と、そこで視界の端に見慣れた物体が映った。
「あ……ポロ」
 忘れていたのはポロのえさだった。家に人の気配があっても動きがないところを見ると、朝から何も与えていないのでおなかを空かせてぐったりしているのかもしれない。
 基本的に、ここらは空き巣などの被害が出たことはないために窓は開け放したままだ。それでも家猫いえねこに近い育てられ方をしたポロはあまり外に出ることはない。単に家の中が一番居心地が良いからかもしれないが。
「ポロ?」
 近くまで来て呼び掛けても反応が無い。さすがにこれはやばいと思って慌ててその体に触れた。
 暖かい。息もちゃんとしてるようで規則正しく脹らんだり縮んだりしてるのが感じられた。
「ふう」
 あんど安堵し、胸をで下ろす。よくよく見るとこいつは昨日眠った位置から一歩も動いていなかった。つまりは今の今まで一度も起きることなく熟睡してたということだ。
「丸一日眠るつもりだったのか?」
 相手がネコでは真実も分からない。それに大事でないのなら無理に知る必要もない。ただ、次からは朝に叩き起こそうとは思う。
「透、どうしたの?」
 二階から降りて来た愛夏がリビングの入り口に立っていた。愛夏が着ている私服はラフな物で、ジーンズにでかでかとロゴの入ったシャツだ。ここまで活発な印象を与える服を着るのは記憶を失くす前には友人たちと出かける時だけだった。
「ん、ポロを起こそうと思って。こいつ、朝から眠ったまままみたいだから」
「ふーん、誰かさんみたいに眠ってるのが一番好きなんだ。やっぱり飼い主に似るのかな」
「それは心外。幾らなんでもここまで眠り続けたりはしない」
「どうだか」
 まったく、困った人よねー。と愛夏はポロの喉を撫でた。条件反射か脊髄反射か、ポロもゴロゴロと喉を鳴らして起きる。
 そしてはらへったー、とお腹をもゴロゴロと鳴らした。
「はいはい、今持ってくるから待ってて」
 愛情豊かな顔でポロの頭を撫でてから愛夏はキャットフードをポロのえさ入れに入れた。水を付けることも忘れない。
 しばらくポロが食べる様子をしゃがみながら見ていた。しっかりと食事をする様子を見て満足したのか、うん、と一人でうなづ頷いて立ち上がった。
「さ、夕飯、作ろ」
 上機嫌な愛夏に、自然と透も気分がこうよう高揚してくるのを感じた。


 今日の事件、と言うより交通事故のことは母・菜由子の耳には入っていないようだった。
 事故自体は大惨事ではあったが、それに巻き込まれたこちら側は無事だったのと、わざわざ蒸し返す気にもならなかったので何も言いはしなかった。
 透は夕食の支度が終わった後に鞄を部屋に置いて着替えていたので席では当然私服だ。ごくありきたりな軽い服装で、目立つ所はどこにもない。強いて言うなら伊達で掛けているメガネだけだ。
 それも、知らない者やすでに慣れた者には何の違和感も与えない。小さい時からしていただけのことはあるということだ。
 この事故の話は、本当なら日常にちょっとある不幸が続いただけで終わるはずだった。極々平凡な日常生活の中で起こった、運の悪い出来事。
 それだけで、終わるはずだった。
 いつ機械が壊れ、どこで車輪は外れ、何が歯車を狂わせ、誰がこれを起こしたのだろう。
 彼が生来の異能者だからか。それとも隣人が不幸になったからか。ありふれた好意があだとなったのか。それとも――
 ――運命。
 これは日常が欠けた時から決まっていたことなのか。
 答えを知る者は彼の友人には居らず、たとえ知っていたとしたら彼は望んでそこへと飛び込んでいただろう。
 贖罪しょくざいを求める者にとって、目の前にそれを果たせるであろう道があるならば、どれほど困難であろうとも向かわずにはいられないのだから。
 それはまるでぼろぼろになっても大切な主を護ろうとする騎士のようであり、また決してむくわれないことをし続ける盲進者のようでもあった。
 彼は、どちらなのだろうか。







あらすじ エピソード0 プロローグ 第一章 第二章 第三章 第四章 エピローグ エピソード0 あとがき